手術器具のお取扱いについて
眼科用マイクロサージャリー器具は小さく、複雑な構造を持つ物が多いことが特徴です。非常にデリケートな製品であるため、外科等の他科で用いられる器具と同等に扱われると破損の原因となりますので、より繊細なお取り扱いをお願い致します。
器具をご使用になる前に、ここに記載されている注意事項を必ずお読みください。
使用上の注意
ご使用前にチェックと洗浄を
すべての器具は出荷前に入念に検査され、梱包されて出荷致しておりますが、輸送中に取扱いの不注意から破損する場合がありますので、到着次第十分にチェックを行って下さい。万一お届けした器具に異常がありましたら、ご使用は避け、直ちに当社までご連絡ください。
またお手元に届いてから初めて使用される際は、必ず一度洗浄してからご使用ください。
器具の保管について
マイクロサージャリー器具は、シリコンマットを敷いたトレーにて保管することをお勧めします。先端がデリケートな器具は保護チューブを装着してください。チューブは出荷時に付属しています。
ロック機能(止め)のついた器具は、ロックを開放した状態で保管してください。ロック状態で長期保管すると、ハンドルテンションが変わるなどの不具合が発生し、器具が傷むことがあります。スプリング式のハンドルを持つ器具や、ILM鑷子等のようなパイプシャフト式の器具も同様で、ハンドル部やシャフトにストレスがかからない状態で保管してください。
また錆びている器具、材質の劣化の見られる器具がある場合は、別に保管してください。
使用目的・方法は守ってください
マイクロサージャリー器具は微細な先端部を有するものが多く、それぞれの用途に合わせた強度で作られているため、使用目的は厳密に限定されています。本来の用途以外で使用されますと、器具が破損する危険性があります。形状が類似しているからという理由で他の目的に使用しますと、器具の強度の限界を超える力が加わり、曲がったり、折れたりする可能性がありますのでご注意ください。
誤った使用例
■M-136N永原式フェコチョッパーをM-127Cシンスキー氏IOLポジショニング用フックの代用とする。
■M-136分割君(徳田式核分割フック)をM-128Cレンズ用プッシュアンドプル鈎の代用とする。
■虹彩鑷子を、強角膜鑷子の代用にしたり、9-0、10-0用の結紮鑷子で4-0、5-0などの太い縫合糸の結紮を行ったりする。
■角膜縫合用デリケート持針器を、ディスポ針を曲げるペンチの代用とするなど。
使用頻度の過多
ディスポーザブル製品の使用回数は1度のみです。洗浄・滅菌処理を行ったとしても再度使用しないでください。
再滅菌、再使用のできるリユーザブルの器具においても、多頻度の洗浄・再滅菌による加熱冷却が、通常からストレスのかかっている止め金部分やヒンジ部分のひび割れ・弾力性の劣化を誘発します。
消毒剤使用に関する注意
塩素系及びヨウ素系の消毒剤は、腐食の原因になるのでなるべく使用を避けてください。このように材質を腐食させるような物質に接触した器具は、特に念入りに洗浄・乾燥させる必要があります。
同一箇所のニ度曲げ禁止
スパーテルやブジーなどを曲げて使用した場合、完全にもとの状態に戻すことは不可能です。例えばS-185・S-185R涙管ブジーはJIST2169の規格により、直径10mmの丸棒に沿って180度曲げても折れません。しかし一度折り曲げたものをもとに戻しますと完全な直線には復元せず、曲げ戻しをした部分に小さな膨らみができます。この部分には強度のストレスが加えられ、弾力性もなくなり硬化していますので、簡単に折れてしまいます。危険ですのでご使用にならないでください。
再使用する場合は表面に傷等がないか、表面が円滑であるかを、顕微鏡で必ず確認してください。
器具にダメージを与えてしまった場合
床に落としたり衝撃を与えたりした器具は、メーカーのチェックを受けて損傷のないことが判明するまで使用しないでください。一見問題がないように見えても、デリケートな器具の異常は専門の技術者でなければ発見が困難です。
使用後の注意
付着している血液・体液・組織・薬品等が乾燥しないよう、使用後は直ちに洗浄液等に浸漬してください。
正しい洗浄・滅菌の方法で処理してください
眼科用器具はその形状や素材、用途によってそれぞれ適した洗浄・滅菌方法があり、誤った洗浄・滅菌は、破損等の原因となります。器具をより長く安全にお使いいただけるよう、器具のメーカーが推奨する洗浄・滅菌の方法にて処理を行うようお願い致します。次にイナミが推奨する洗浄・滅菌方法をご紹介します。
理想的な洗浄・滅菌
器具は使用後直ちに洗浄し、純水で濯ぎを行います。完全に乾燥させた後、各器具に適した方法で滅菌を行ってください。洗浄・乾燥後は、汚れが完全に除去されていること、及び器具の作動チェックを行うようにしてください。
カニューラ・ニードル・パイプシャフト型器具(ILM鑷子等)のように細い管空形状を有する器具は、次の操作を行うようにしてください。
【強制通水】→[洗浄前] [濯ぎ後]: より高い洗浄効果が得られます。特にパイプシャフト型の器具は、付属の専用注射器で通水し予備洗浄を行うようにしてください。
【強制通気】→[乾燥前]: 乾燥の促進。パイプ内の水分を完全に除去する。
洗浄
眼科用マイクロサージャリー用器具は、なるべく機械的な洗浄(こすり洗いや一般的な超音波洗浄器の使用等)は避け、化学的な洗浄を行うようお願い致します。ワイヤーブラシ、金属研磨剤等は洗浄に使用しないで下さい。基本的には洗浄液への浸漬洗浄が適しています。
浸漬洗浄 (しんせきせんじょう)
洗浄液へ漬けることで、頑固な汚れや目に見えずに残った汚れを浮かすことができます。
デリケートに扱わなければならない器具や手の届かない部分があるような器具に適した洗浄方法です。
浸漬洗浄する際の注意
器具先端・ヒンジ・ロック(止め)・関節式ジョイント部位等は開いた状態で洗浄液に浸して下さい。(剪刀、持針器、止血鉗子、スプリングハンドル式鑷子等)
また、浸漬中は器具が重ならないようにして下さい。洗浄液が行き届かず汚れが落ちない部分が発生してしまいます。
超音波洗浄器を使う場合
通常の超音波洗浄器は目に見えないダメージを器具に与えてしまいます。先端がデリケートなフック等は、器具を手に持った状態で先端のみ洗浄液に漬け、短時間処理されるようお願いいたします。
また洗浄液は常に新しいものを使用するよう心掛けてください。洗浄液中の汚れは器具に傷を与え、性能の低下につながります。(例:剪刀の切れ味低下など)
落ちにくい汚れの洗浄
流水での予備洗浄→洗浄液へ浸漬→本洗浄の手順で行なうと、より効果的です。器具に付着した血液、体液等の除去は、イナミクリ-ンPへの浸漬が効果的です。
器具の汚れ具合を把握し、効率の良い除染手順を選択してください。
濯ぎ
洗浄の仕上げには純水による濯ぎを行う必要があります。
手術器具の洗浄には塩類等の不純物を完全に除去した純水が理想的です。水道水は飲料水にするために主に塩素系の消毒液を含有しています。水道水を洗浄に用いた場合、水の中に含有される塩素により金属の腐食が発生します。またミネラルなど微量の不純物が付着して残り、シミやサビの原因となります。(※反射防止のためのノングレア表面処理・サテン仕上げの製品にはシミの付着が避けられません。)老朽化した水道管を通ってきた水に含まれるサビの粒子も、器具に付着するとサビや腐食の原因になります。
乾燥
洗浄後は、速やかかつ完全に乾燥させてください。水分が残っているとサビや滅菌効果低下の原因となります。器具の乾燥に際しては、糸屑のでない柔らかい織布、当社M.Q.A.、柔らかいブラシ、空気ガンを使用しての乾燥が効果的です。(繊維で引っかけて器具に損傷を与えることがあるため、デリケートな先端部の拭き取りにはガーゼ、脱脂綿等の繊維質のものは使用しないでください。)
剪刀のヒンジ部位のように金属が重なっている部分は水分が残りやすいため、器具先端を開き、ヒンジ部位を開放した状態で乾燥させてください。パイプ形状の器具も通気等を行ない、積極的に乾燥を行ってください。
滅菌
各器具に適した滅菌方法を選択してください。
器具の素材や形状によっては、滅菌効果が十分に得られない可能性があります。
以下をご参考に、各医療機関様の方針に従った滅菌処理を行ってください。
◆ ステンレス製・チタン製等のイナミ鋼製手術器具(一部シリコンを使用した製品を含む)は、基本的にオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)が可能です。(素材は添付文書に記載されています)
◆ 長い管空を有するパイプシャフト形状の器具は、EOG滅菌ではガスが十分に管空内に達しない場合も想定されるため、オートクレーブでの滅菌を推奨致します。カニューラ・ニードル程度の長さの器具であれば、EOG滅菌でも効果が得られると考えられます。
◆ カニューラ・ニードル・パイプシャフト型器具のプラズマ滅菌での滅菌効果は検証していません。チタン製品はプラズマ滅菌で若干退色する場合がありますが、品質には問題ありません。
滅菌前にしっかりと除染
器具の表面に汚れ・蛋白質等が付着したまま滅菌を行わないようにして下さい。洗浄の不完全さを滅菌でカバーしようとしないでください。
器具は完全に乾燥させてください
器具に水分が残ったままで高圧蒸気滅菌処理を行いますと、サビが発生する原因となります。またEOG滅菌では滅菌効果が低下します。
ロック(止め)は外してください
ロック(止め)付器具に高圧蒸気滅菌を行う場合は、金属膨張による破損を防止する為に、ロックをはずした状態で滅菌処理を行ってください。
高圧蒸気滅菌 | EOG滅菌 | プラズマ滅菌 | |
---|---|---|---|
鑷子・剪刀・持針器・開瞼器 | ○ | ○ | ○ |
カニューラ・ニードル・フック | ○ | ○ | △ |
パイプシャフト | ○ | △ | △ |
チタン製品 | ○ | ○ | △ |
先端の保護
有鈎鑷子やパイプシャフト系の器具などは先端が非常にデリケートなため、滅菌の際はシリコンチューブ等にて先端を保護し、シリコンチューブ等にて先端を保護し、シリコンマット式滅菌トレーや専用ケースに入れて滅菌処理をされるようにお願い致します。
付属の保護キャップについて
ご購入いただいた際、当社鑷子類等に付属している先端保護用のチューブ類は塩化ビニル製で、耐熱温度は50℃です。
オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)やガス滅菌にて処理をされますと、変形する場合等がありますので、ご注意ください。
形状別器具洗浄・滅菌方法
パイプシャフト系の器具(河合氏CCC鑷子など)
器具の劣化 サビ(腐食)・シミ・熱ヤケ・ひび割れ
サビ(腐食)
金属製器具を使用する限り、常にサビ(腐食)に対する防御策を講じる必要があります。剪刀のヒンジ部分、ハンドルの滑り止めの筋、鑷子のかしめ加工及びバネ熔接部分、遮蔽されて見えない部分等に多発する傾向があります。洗浄・清掃・乾燥処理を念入りにお願い致します。
サビは体液、血液等といった有機物の付着と混同されることがあります。これらはメーカーの専門チェックを受けないと正確には判定できない場合がありますのでメーカーに送ってチェックを受けることをお勧め致します。
【よくあるサビの原因】
◆ 水分に含まれる塩素、ミネラル、老朽化した水道管からのサビの粒子等
◆ 液体またはガス状の薬品との反応 (ハロゲンイオンの付着)
◆ 濃い酸性溶液への長時間の漬け込み→薬品の使用時間は最低限とし、消毒後はしっかりと水洗。
◆ 汚れた消毒剤への漬け込み
◆ 空気中の湿気
◆ 僅かなヒビからの腐食→ヒビ割れの内部は研磨されていないため錆びやすい。
◆ 異なる成分の金属製品との接触放置 → 水分がある状態では腐食を誘発します。
◆ 摩擦→剪刀のヒンジ等繰り返し摩擦される部位は、表面皮膜が剥がれてサビが発生することがあります。
イナミクリーンLの使用で、軽度のサビを除去することができます。またご購入後に、まずイナミクリーンLへの浸漬処理をしていただくことで、サビの発生を軽減させることができます。(製作の過程で器具表面に残存する酸化物を除去できるため)
シミ
金属表面に色のついた輪状のシミが現れることがあります。これらは水に含まれるミネラル・重金属イオン等が金属表面に付着し、オートクレーブ滅菌の影響により化学変化をおこして変色したものです。
サビと間違われることがありますが、侵食を伴うサビ(腐食)とは異なり異物が表面に付着しているだけですので、多くの場合除去が可能です。
【シミの種類】
◆ 薄い色の輪状のシミ→水に含まれるミネラル・重金属イオン等が原因。洗浄・滅菌には純水を使用して下さい。
◆ 白いシミ→ある種の洗浄剤に含まれるリン酸塩により発生することがあります。
◆ 茶褐色の付着物→器具の金属表面に黄色がかった茶色から褐色の付着物が現れることがあります。これらは洗浄剤の残存成分が滅菌の過程で化学変化してシミとなったもので、洗浄中に手の届きにくい部位に多く発
生します。誤って錆びと思われる場合もありますが、表面を強く摩擦するか洗浄剤の使用により痕跡を残さず除去できます。
シミの状態が軽度であればイナミクリーンRに浸せば除去できます。
金属表面の強い摩擦…クリーナーを用いる場合は研磨剤を含まないものを使用して下さい。研磨の際は器具に余計な力を加えないよう注意してください。
熱ヤケ
高圧蒸気滅菌で空焚きをしてしまった等の場合、熱により金属表面が黒褐色に変色してしまいます。
この変色はイナミクリーンRでもとに戻すことが可能です。
しかし熱によって金属の「焼入れ」がもとに戻り、強度が劣化する可能性がありますので、ご注意ください。
ストレスによるひび割れ
外部からの衝撃や機械的加圧、瞬間的な極端な温度差等でひび割れを起こす可能性があります。
ロック付きの器具は、特に注意が必要です。洗浄・滅菌の際はロックをはずし、ストレスフリーな状態での処理をお願い致します。
手術器具のメンテナンスに関して
当社の鋼製手術器具類は基本的には修理は可能ですが、鑷子の鈎の破損・摩耗・著しい噛み合わせ不良、核分割フック類の著しい曲りなど、修理を施すことにより、原型をとどめられない場合等、修理が不可能な場合もありますので、ご承知おきください。