滅菌に関する注意

 

イナミ製手術器具をご愛用いただき、有難く厚く御礼申し上げます。
ご承知の通り、眼科用マイクロサージヤリー器具はその構造が非常にデリケートであるため、不的確な取扱いにより容易に破損致します。このカタログに記載されております器具をご使用になる前に、ここに記載してあります御注意を是非お読み下さるようお願い致します。 なお、不明な点に関しましてはご遠慮なくお問い合わせ下さるようお願い申し上げます。 すべての器具は出荷前に厳重に検査され、梱包されて出荷致しておりますが、お手元に届くまでの輸送中に取扱いの不注意から破損する場合があるかもしれませんので、到着次第十分にチェックをお願い致します。 万-、お届け致しました器具に異常がありましたら直ちに当社にご連絡下さるようお願い致します。

1. 器具の材料

主にマルテンサイト系ステンレス鋼、JIS G403鋼棒、JIS G4305冷間圧延鋼板及び同等品。これらは“錆びない金属”でなく“錆びにくい”金属です。特徴として、硬さ(刃物の切れ味)粘り(刃物の切れ味の持続性)、(ピンセット等の腰の強さ、スプリングの弾力性)があります。


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2. 材料の硬度

熱処理(いわゆる焼き入れ)により硬度を強化できる利点のある反面、完全な不酸化材料ではないので条件によっては材質が腐食したり、表面にシミ、錆びが付着することがあります。
器具のハンドルの滑り止めの筋、剪刀のヒンジの部分、ピンセットのバネを溶接、かしめ加工をした部分等に多発する傾向があります。


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3. 器具の破損

A. 乱暴な扱い

眼科用手術器具は最もデリケートな構造の製品が多く、取扱いには細心の注意が必要です。床に落としたり他のものにぶつけたりすると使用できないほどのダメージを受けてしまいます。頑丈そうで意外に先端の調整が狂い易い器具が睫毛鑷子類です。お取扱いは十分ご注意下さい。
器具は保護のためショックを与えないようシリコンメッシュ式の滅菌用コンテナ等に入れて滅菌、保管してください。
器具の洗浄はできるかぎりソフトなブラシを使用した手洗いをし、強い力を加えないように注意してください。

B. 使用目的以外の使用

眼科用手術器具、特にマイクロサージャリー用器具は微細な先端部を有するものが多く、使用目的は厳密に限定されています。形状が類似しているからという理由で他の目的に使用しますと器具の強度の限界を超える力が加わり、曲がったり、折れたりする事故につながりますのでご注意願います。

誤った使用例

○M-136N永原式フェコチョッパーをM-127Cシンスキー氏IOLポジショニング用フックの代用に使用する。
○M-136分割君(徳田式核分割フック)をM-128Cレンズ用プッシュアンドプル鈎の代用に使用する。
○虹彩鑷子を、角・強膜鑷子の代用にしたり、9-0、10-0用の結紮鑷子で4-0、5-0などの太い縫合糸の結紮をする。
○角膜縫合用デリケート持針器でディスポ針を曲げるペンチの代用にする等々。

C. 超音波乳化吸引手術

超音波乳化吸引手術中、水晶体核の分割、回転等の操作を行うマイクロフックは手術中は絶対に乳化吸引チップに接触させないでください。

警告

特に、先端部が屈曲している器具は屈曲部に超音波の振動による強力な衝撃が集中し折損します。屈曲部に金属疲労、衝撃等による損傷(曲がり、亀裂等)があると簡単に折れます。

D. 使用頻度の過多

ディスポーザブルと表示してある器具は一回の使用にしか耐えられません。再滅菌、再使用のできるいわゆるリユーザブルの器具も多頻度の洗浄、再滅菌による加熱、冷却により、通常ストレスのかかっている止め金部分、ヒンジ部分のひび割れ、弾力性の劣化を誘発します。

特に注意していただくものは、S-185、185R涙管ブージですが、JIST2619の規格により、直径10mmの丸棒に沿って180度曲げても折れません。然し、一度折り曲げたものをもとに戻しますと完全な直線には復元せず、曲げ戻しをした部分に小さな膨らみができます。この部分には強度のストレスが加えられ、弾力性もなくなり、硬化していますので簡単に折れてしまいます。危険ですのでご使用にならないでください。再使用する場合はかならず顕微鏡での表面の傷、まくれ等の有無をチェックして、安全を確認してください。

E. 誤った洗浄、滅菌処理

手術器具は水と関係が深く、水の善し悪しに特に注意をする必要があります。飲料水としての条件を満たしていても手術器具の洗浄に使用できない場合があります。 水道水は飲料水にするために主に塩素系の消毒液を含有しています。水の中に含有される塩素により金属の腐食が発生します。

警告

老朽化した水道管を通ってきた水に含まれる錆びの粒子は器具に付着すると、錆びや腐食の原因になります。

4. 理想的な洗浄

マイクロサージャリー器具の洗浄には蒸留水が理想的です。
マイクロサージャリー用器具は原則として科学的な洗浄を行い、機械的な洗浄(超音波洗浄等)は行わないでください。(水によるスプレーガンを除く)器具は使用後、直ちに洗浄し、速やかに水分を拭き取り、乾燥させてください。硝子体手術及び網膜手術用鑷子・剪刀類は細いパイプの中に作動装置が組み込まれているので、毛細管現象により血液、体液、生理食塩水がパイプ内に侵入します。ご使用後直ちにパイプ内を洗浄、乾燥させてください。パイプ内に侵入した液が凝固し、器具が作動できなくなります。洗浄方法はこれらの器具の取扱い説明に従ってください。

禁止 警告

超音波洗浄はダイヤモンドナイフの刃こぼれ、刃のぐらつきを発生させることがありますので、超音波洗浄器はご使用にならないでください。

器具の乾燥に際しては、糸屑のでない柔らかい織布、パルプ材を原料としたインスツルメンツワイプ、M.Q.A.、柔らかいブラシ、空気ガンを使用しての乾燥が最も効果的です。
器具に付着した血液、体液等の除去には、イナミクリーンP液に浸漬させ、防錆用には、イナミクリーンL液に浸し表面の酸化物を除去してください。

注意

マイクロサージャリー用器具の反射防止用ノングレアー表面処理、サテン仕上げの製品にはシミの付着が避けられません。

再滅菌して使用するカニューレ、吸引針、注入針等は安全且つ正常な状態で使用できるよう、滅菌前及び術後に十分な洗浄、乾燥をしてください。

ア.パイプ内部にホコリ、小さい異物等が混入しているかも知れませんので、温湯を注射筒で数回、勢い良く通して内部を洗浄してください。(先端が鋭利でないカニューレ等は超音波洗浄でも結構です)
イ.パイプ内に塩分、血液、体液等が進入して付着していることが危惧される場合はイナミクリーンP(高力価酵素配合洗浄液)を注射筒で数回高圧通水させてください。
ウ.最後に蒸留水を注射筒で強制通水し、次に注射筒で空気を送り込みパイプ内の水分を完全に放出させてください。
エ.術後の器具も術前同様に洗浄、乾燥させてください。

5. 器具の滅菌

A. デリケート器具類

器具、特にマイクロサージャリー用のデリケート器具類(ダイヤモンドナイフを含む)は乾熱滅菌及び煮沸消毒法でなく、E.O.G.滅菌、オートクレーブ滅菌(但し、135℃以下)でお願いします。

警告

E.O.G.滅菌の際には洗浄した器具を完全に乾燥させた後に行ってください。(水分が付着しているとE.O.G.が水に溶けて滅菌効果を失わせたり、生体内に吸収されることがあります)

B. 外来処置用器具類

日常、頻繁に外来で使用される器具(異物針、睫毛鑷子、開瞼器、剪刀など)は薬液による殺菌が行われています(0.02%ヒビテンアルコール、0.1~0.4%デターチサイド等)。この場合も特に刃物はシミ、錆びを発生させる場合がありますので十分な洗浄、乾燥処理をお願いします。

滅菌法

  摘要 対象
加熱滅菌法 火炎滅菌法 ガラス製、磁性、金属物の作品 火炎中で20秒間以上
乾熱滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、繊維製の物品、鉱油、脂肪、脂肪油、試薬、固形の薬品 135~145゜ 3~5時間
160~170゜ 2~4時間
180~200゜ 0.5~1時間
200゜以上 0.5時間以上
高圧蒸気滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、ゴム製、紙製、繊維製の物品、水、培地、試薬、試液、液状薬品 115゜(0.7kg/c㎡)30分間
121゜(1.0 kg/c㎡)20分間
126゜(1.4 kg/c㎡)15分間
流通蒸気滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、ゴム製、繊維製の物品、水、培地、試薬、試液、液状薬品 100゜の流通水蒸気中30~60分間
煮沸殺菌法 ガラス製、磁性、金属製、ゴム製、繊維製の物品、培地、試薬、試液、液状薬品 沸騰水中に沈め15分間以上煮沸
照射滅菌法 放射線滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、ゴム製、プラスチック製、繊維性の物品、施設、設備、水、医薬品 60Co、又は137Csなどを含む放射線源を用いる。
紫外線滅菌法 ガラス製、金属製、ゴム製、プラスチック製、繊維製の物品、施設、設備、水、医薬品 200×300mmの紫外線を用いる。
高周波滅菌法 水、培地、試液または液状の薬品 通例915又は2,450メガサイクル高周波を用いる。
科学的滅菌法 ガス滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、プラスチック製、ゴム製、繊維製の物品、施設、設備、粉末の医薬品 エチレンオキサイド、ホルムアルデヒド等の殺菌性ガスを用いる。
薬液滅菌法 ガラス製、磁性、金属製、プラスチック製、ゴム製、繊維製の物品、手指、無菌箱または無菌設備 消毒用エタノール、0.1~1v/v%塩化ベンザルコニウム液、クレゾール水、フェノール水、ホルマリン水等が使用される。

手術器具の洗浄、滅菌の基本的注意事項

1. 処理の過程では細心の注意で器具を取り扱うこと。床に落としたり、衝撃を与えた器具は製造者のチェックを受けて損傷のないことが判明するまで使用しないこと。(デリケートな器具の異常は専門の技術者でなければ発見が困難です。)
2. 新しく使用を開始する器具は使用前に完全に洗浄して汚れを除去すること。
3. 繊細なマイクロサージャリー器具は使用前に完全に洗浄して汚れを除去すること。
4. 材質を腐食させるような物質に接触した器具は特に念入りに洗浄、乾燥させること。
5. 器具の製造者が指示する洗浄、滅菌の方法に従って処理すること。
6. 洗浄に使用する洗浄剤の濃度、使用時間等はメーカーの指示通りに行うこと。
7. 体液、血液等の付着した器具はできるだけ速やかに洗浄液に浸すこと。
8. 洗浄液に浸す際には洗浄液が器具の全体に行き渡るようにするため器具を重ね合わせないこと。
9. 剪刀、持針器、止血鉗子、スプリングハンドル式鑷子等ヒンジ、或いは関節式ジョイントで開閉する器具は開いた状態で洗浄液に浸すこと。
10. 器具の洗浄の際ワイヤーブラシ、金属研磨剤等は絶対に使用しないこと。
11. 洗浄後の器具は蒸留水で念入りにすすぎをすること。
12. 洗浄、乾燥後の器具は汚れが完全に除去されていること及び器具の作動具合をチェックすること。(繊維で引っかけて器具に損傷を与えることがあるため、デリケートな先端部の拭き取りにはガーゼ、脱脂綿等の繊維質のものは使用しないこと。)
13. 器具の中に錆びている器具、材質の劣化の見られる器具があれば別にしておくこと。
14. 器具の構造によっては正常な作動を維持させるため、洗浄後に必要に応じて防錆油等の塗布或いは注入等の処理をすること。
15. 開閉用ロック付き(止付)器具の滅菌の際にはロックを外しておくこと。
16. 滅菌の際には器具に最適の滅菌条件を選択、設定すること。
17. ディスポーザブル製品の再滅菌、再使用は行わないこと。
18. 完全に洗浄された器具を滅菌すること。洗浄の不完全さを滅菌でカバーしようとしないこと。器具の表面に汚れ、淡白質等の付着した器具を滅菌しないこと。
19. ルビー、サファイヤ、ダイヤモンド製ナイフの超音波洗浄は絶対に行わないこと。刃を拭く場合は刃を指の間で挟むような拭き方はしないこと。(刃を折る危険あり)ダイヤモンドナイフのオートクレーブ滅菌温度は135℃以下とすること。
20. パイプ状の器具はガス滅菌でなくオートクレーブ滅菌をすること。
21. パイプ状の器具は洗浄後、強制通気をしてパイプ内に残存する水分を完全に除去すること。
22. チタン合金製器具のカラーコーティングは過酸化水素により脱色されるので要注意。

腐食(錆び)及びシミについて

腐食は液体又はガス状の薬品が金属、合金に反応して発生する場合が多く、鉄などは湿気を含む空気に曝された状態でも発生します。従って金属製器具を限り常に腐食に対する防御策を講じる必要があります。

手術器具に使用しているステンレススチールには大別して二種類あります。
「手術器具の取扱い及び滅菌に関するご注意」第1項 器具の材料の説明にありますように熱処理によって硬度、粘りを発揮する材料マルテンサイト系ステンレススチール(SUS304)と呼ばれるオーステナイト系ステンレススチールのカーボン含有比率0.08%以下(家庭用品では洗面器、キッチン流し台等、医療器具ではオートクレーブ滅菌用コンテナ、手術器具の柄、その他硬度、弾力性を必要としないかわりに腐食しにくい性質を重要視する製品)材料と比較すると腐食する可能性が高い材料です。ステンレススチール表面の変色や付着によるシミと腐食(錆び)の違いを認識していただくために以下の説明をお読みください。

金属の表面に色のついた輪状のシミのようなものが付着することがあります。これらは水に含まれるミネラル、重金属イオンなどがオートクレーブ滅菌の上記の影響により金属の表面に付着或いは変色をおこしたものです。水によって発生するシミは似たような現象ですがこの場合は変色の輪郭がより一層はっきりしています。発生の原因として水に含まれた有機物或いは過剰なミネラル成分が反応してシミを発生させることがあります。この現象はSUS304にもSUS420J2にも同様に起こります。シミは金属表面の強い摩擦、場合によっては研磨剤を含まないクリーナーを併用した磨きで除去できますが、シミの状態が軽度であればイナミクリーンLに浸せば除去できます。最善の方法としては洗浄、滅菌に使用する水にはミネラル成分、塩分を除去した水或いは蒸留水を使用することです。成分の除去が不十分ですと細かい痘痕状の腐食が発生することがあります。ある種の洗浄剤に含まれるリン酸塩による白色のシミが発生することもあります。滅菌された器具の表面に現れる黄色がかった茶色から褐色の付着物は誤って錆びと思われる場合があります。

これらは洗浄、清掃処理中に手の届きにくい部位に多く発生します。これらは表面を強く摩擦するか洗浄剤の使用により痕跡を残さず除去できます。これらのシミは洗浄剤の残存成分が滅菌の過程で化学変化してシミとなったものです。使い古された消毒液のなかに保存された器具も表面に付着した残存物により変色することがあります。滅菌中に残存物が金属表面を鱗状の茶褐色に変えることがあります。

金属材料の酸化

酸化による器具の錆びは長時間濃い酸性の溶液に浸しておいた場合を除き通常では発生しません。錆びは金属表面に酸化鉄の被膜が複数箇所に発生しておこります。
このような酸化現象は急速に進み、金属表面に痘痕状の腐食傷を残すようになります。

痘痕状の腐食

腐食のなかで最も頻繁に発生する現象で表面的には小さくともその腐食が金属内部に深く浸透していくものです。この腐食の原因はハロゲンイオン(塩化物、ヨウ素、臭化物)、汚れた消毒液等が器具の表面に付着した結果であることが多いとされています。ハロゲンイオン等の付着が避けられない場合は、器具を使用後速やかに洗浄、清掃をしなくてはなりません。痘痕状の腐食は前述の金属表面の変色したシミを伴う場合が多くあります。

割れ目、陥没状の腐食

他の金属部品(同材質)または非金属部品との接触部分、主に遮蔽されて見えない部分に発生することがあります。これらは僅かな亀裂に発生する腐食である場合があります。この腐食は有機物(体液、血液等)の付着と混同されることがあります。これらはメーカーの専門チェックを受けないと正確には判定できない場合がありますのでメーカーに送ってチェックを受けるようお勧め致します。

摩擦による腐食

腐食に強いオーステナイト系ステンレススチールにおいても材料の反対方向への作動による摩擦(剪刀のヒンジ部等)で非常に微細な金属の切り屑が発生したり化学反応が起きないように加工した表面被膜が剥がれて腐食が発生することがありますので繰り返し摩擦される部位の洗浄、清掃、乾燥処理を念入りにお願い致します。

接触による腐食

異なる成分の金属の接触部分は電解液や、水のあるところで腐食を発生することがあります。ステンレススチール器具とカーボンスチール製の器具を一緒にした場合、特に使い古されたカーボンスチール製器具の表面のクローム又はニッケルメッキが離脱したりしていると両方の器具の接触部で広範囲に錆びを発生しますので注意する必要があります。成分の異なるステンレススチール製とカーボンスチール製の器具を一緒に洗浄してそのまま接触放置しないようにご注意願います。

ストレスによるひび割れと腐食

各種のストレス(溶接、機械的加圧、衝撃、あるいは熱処理等)及び塩素処理をした媒体によってオーステナイト系のステンレススチールはひび割れを起こすことがあります。鉄分を含む鋼材はこの種のストレスによる腐食には比較的反応しにくい性質があります。オーステナイト系ステンレス製の器具で固定装置(止付)のものは止めをはずして洗浄処理をする必要があります。瞬間的に極端な温度差をあたえるとひび割れを起こす可能性もありますのでご注意願います。 腐食した水道管から供給される水には細かい錆びの粒子が含有されていることがあり、器具の錆び、腐食の起因となることは前にご説明いたしました。洗浄、滅菌による器具の腐食あるいは劣化には使用する水の成分に左右されるケースが多いのでご用心下さるようお願い致します。